―最近読んだ本からー「土の器」
阪田寛夫著
昭和50年3月15日 第1刷発行
昭和50年6月23日 第2冊発行
定価:絶版にて近くの図書館か古本屋でお求め下さい
発行所 文芸春秋
説教塾主宰の加藤常昭先生からの紹介で「土の器」を読んだ。私が手にした「土の器」は、文芸春秋発行の本で、それは5つの短編から成っていて、そのうちの「土の器」のみを読んだのであるが、それはいずれも著者の身内を扱った小説とのことである。①「音楽入門」は著者の父を、②「桃雨」は祖父を、③「土の器」は母を、④「足踏みオルガン」は叔父を、⑤「ロミオの父」は作者の娘のことを中心に書かれているとのことである。
さて、今回の「土の器」の感想文は、ご自分の母のことを記した③の「土の器」であることを記しておきたい。これは、現代の介護が、大きな問題になっているが、その先駆けとも思われる作者の母の晩年の病気との闘い、そして家族がその介護に、翻弄される物語である。著者の母は、熱心なクリスチャンであった。その死に至るまでの経緯が、小説家らしい観察と洞察、表現力で事細かく、記されている。人が死ぬるときは、ここに記されているような深刻な問題にだれもが突き当るのではないか。病気と老いの問題と、本人を取り巻く家族の問題が、キリスト教徒の家族であるがそれだけに母を見て来た息子の立場で鮮明に浮き彫りにされている。阪田寛夫は、1925年10月18日生まれで2005年3月22日逝去79歳の生涯で、日本の詩人、小説家、児童文学者とあり、身内にも著名人が何人もいて、古い血筋の家系に生まれ、大阪市の育ちであって関西に長くいた私には、なじみやすい小説でもあった。「土の器」とはご存じのとおり、パウロのコリントの信徒への手紙二第4章7節に出て来る言葉である。著者の母の体がすい臓がんに侵され、末期には、点滴のきれいな液と、対照的に配管から出て来る尿のこげ茶色の黒くなった血のような液など、死期を前にした人間の肉体が壊れて行く描写などが生々しい。そして、クリスチャンとして歩んだその生涯が重病を通しての心理の変化、末期の描写が、阪田寛夫でしか書けないタッチで記されている。私どもの信仰とはいったいどのようなものなのだろうか。クリスチャン家庭で子供の育った心理も窺われて反省もさせられるが、この小説は誰が読んでも得るところが大きいと思う。パウロは、我々は「土の器に」神の賜物が込められているという。阪田寛夫は自分の母親の最期まで介護し、この小説を書きその後どのように変えられていったのだろうか。
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